「どこかお悪いのですか?」
香椎くんの顔が神妙で……私はまた息を飲んでしまった。
でも、心のどこかでズキリと軋む音がした。
なんでだろう?
どうしてだろう?
香椎くんが『香椎くん』であることに、私はズキッと胸が痛んだんだ。
「どこも……悪くありません」
急いで香椎くんから目を逸らし、机の上に広げた参考書に視線を落とした。
英単語の羅列がまるで幾何学模様みたいに見えて、何一つ私の頭の中に入ってこない。
こんなことは初めてだった。
ああ、きっとこういうことを言うんだろうな。
何も手がつかないの……そういうことなのかもしれない。
「素直じゃないところも……愛らしい」
クスッ。
そんな声に私は顔を上げ、言った張本人を睨みつける。
香椎くんは目を細めて私を見たまま、動じもしない。
悔しい悔しい悔しい悔しい。
悔しいんだけどさ。
こうやって言われるのもちょっと嬉しいなんて思うバカな私もいて……ああ、まぢドツボ。


