柔らかな風が吹き抜ける。
私と香椎くんの間を……
繋がった手はしっかりと握られているわけじゃなく、振り払おうと思えば振り払うことなんて簡単にできるくらい軽いものなのに。
私は香椎くんの手を離せなかった。
白い手袋をしたままの香椎くん。
それがなんだか妙にもどかしく感じた。
香椎くんは私を見ないまま、真っすぐ前を向いて歩いていた。
優しい風に、香椎くんの耳傍の両サイドの遊び毛がさわり、さわりと揺れていた。
『笑いましょう』
彼の意図は分からない。
彼の思惑は分からない。
私は彼の『課題』とやらをクリアすることができるのだろうか?
そのボーダーは激しく遠くて、途方もないようなもののようにも感じた。
「……ばぁかっ」
聞こえないくらい小さな声で、そっと香椎くんの背中に飛ばしたけれど……
彼はこちらを向くことなく、真っすぐに歩いていた。
戸惑う私一人を……私の心をその場に置き去りにするように――歩き続けていたのだった。


