「まさか、ボクと争う気でいるなんておっしゃりませんよね?」
岳尚様が挑戦的にそう言った。
黒ぶち眼鏡の奥の瞳がいつになく……鋭くてというのか、意地悪というのか、今まで一度も見たことのないような別人のような目をしていた。
「争う気なんかない。
もともと勝負はついているから」
お話が見えません。
っていうか、この人たちは『オシリアイ』ですか?
「ずいぶんな自信ですね。
でも、まさかこんなことをなさっておいでだとは……」
くすっと小さく岳尚様が笑い、香椎くんを上から下へと舐めるように見た。
「ま、いいですよ。
せいぜい頑張りなさい」
香椎くんの肩をポンポンと叩くと、岳尚様はスッとその横を通過する。
それから私にまた柔和なほほ笑みを向けると
「では、ごきげんよう、セリさん。
オモシロイ執事君と話せて楽しかったですよ」
そう言って、道路に待たせてあった車へと颯爽と戻っていった。
私といえば、もうなにがなんだか分からなくて……とりあえず、走り去っていく車をぼんやり見送ることしかできなかった。


