香椎くんは小さくため息をついたかと思うと、岳尚様につかつか歩み寄った。
岳尚様だって身長は高い。
たぶん170後半はある。
のに、香椎くんはその上を行くでかさだった。
その彼が岳尚様を見下ろすように……ガン垂れ中。
いや……だから……それは立場的にダメでしょ、香椎くん。
私の心の声が届いたらいいのにと思うのに。
いや、ここできちんと執事の彼を教育したほうがいいのよ、セリ!!
とか思うんだけど。
どうにも足も身体も言うことを聞いてくれなくて、その場の空気に釘付けになった。
だって……
香椎くんの真っすぐな目に……どうしようもなくドキドキしている自分がいて。
いや、違う、違うったら、セリ!!
これは勘違いだ。
つり橋効果ってのと一緒よ!!
この場の緊迫感からドキドキしているのを、香椎くんにドキドキしているのと勘違いというか錯覚してるのよ!!
しっかりしなさいっ!!
彼は執事、私は御主人様!!
さぁ、言ってみよう。
「かし……」
「やめておいたほうがいい」
おーい。
一足遅かったよ、セリちゃん。
香椎くんは睨んだまま岳尚様にそう言った。
一方、岳尚様と言えば、香椎くんとは対象的に涼やかな余裕の笑みを浮かべていた。


