九条岳尚様は私がまだ幼かった頃、両家の祖父母たちによって決められた結婚相手だった。
だから好きとか嫌いとか。
もうそういう次元を超えていて。
将来、この人の嫁になること確定な未来をずっと突き付けられてきたから。
だから完璧でないとダメだと言われ続けていたし、そうあるべきだと思ってきていた。
だけど、どこかでそれに反発したかったし、そうすることにも疲れた私は、岳尚様の目を盗んで彼氏を作ることもしばしばあったけれど。
そのたびに、どういうわけか裏から手が回って向こうが逃げていくっていうかんじで。
いや……岳尚様は実際、とってもイイ人なんだけど。
それにカッコいいし、文句のつけようもないんだけど。
でも……どうせ一生この人といることになるんなら、脱線したっていいじゃんねとか思うんだけど。
彼を目の前にすると、本当にすごく胸が痛くなる。
「フィアンセねぇ」
それまで黙っていたはずの香椎くんがぽつりとそう呟いた。
って、おいっ!!
今、あんた敬語じゃなかったけど。
パッと香椎くんの方を振り返る。
香椎くんは腕組みしながら明後日の方を向き
「初耳だな」
と言った。
コノヒトホント二執事ナノ?


