「えっと……ご用事はなんでしょうか、岳尚様」
香椎くんを後ろに控えさせつつ、なんとか岳尚様の注意を引く。
なんつー態度してるんじゃ、香椎毅臣っ!!
おまえ、私を貶めるつもりかっ!!
岳尚様はコホンと一つ咳払いすると
「男子部の方でも貴女の噂が絶えなくて。
なんでも絶世の美男子執事をお供につれていらっしゃると聞いたものですから……その……やはりフィアンセとしては……」
クィっと眼鏡を直しながら、もう一度香椎くんにチラリと視線を送って岳尚様は言った。
その言葉に一瞬大きくため息をつきそうになったけれど、ぎりっぎりのところでこらえ、ニッコリと岳尚様に笑みを向けた。
「御心配には及びませんわ、岳尚様。
『彼』はただの『執事』なのですから」
私って女優だなと思う。
いや、女優と言うよりもでっかい猫のかぶりもん、おもいっきり着こんじゃってるって言うほうが正解かもしれない。
目の前の岳尚様は真っ黒で艶やかな髪をさらりと払うと
「そうですよね」
と満面の笑みを浮かべて見せた。
香椎くんのキラースマイルと……どこか似た感じもするけれど。
こっちのほうが圧倒的に他意がなくて素直な笑顔だなとか……分析してみる。


