「本当にそう思うのか?」
ぐっと腹の底に響くような声で香椎君は尋ねた。
その声にマシューが言葉を飲み込んだ。
そんなマシューを一瞥すると、香椎君は大きなため息をつきながら立ち上がった。
「……本当におまえってオレのこと、覚えてないんだな」
それからぐるっとまわりを取り囲むギャラリーを見回すと「いいですよ」と誰かに向かってそう告げた。
「もう隠れてなくて結構ですよ、ウィリアム卿」
ざわりとギャラリーが騒然とする。
すると体育館の入り口近くの群衆がすっとまるで道を開けるかのように両端に寄った。
マシューの視線がそこに釘付けになったのはその瞬間だった。
道の真ん中に初老の紳士が姿を見せた。
グレーの細いストライプのスーツに身を包んだロマンスグレーの顔立ちの整った紳士が、なんとも言えない複雑な顔をしてそこに立っていた。
「父……上……」
信じられないものを見ているかのように大きな目がさらに大きく開いた。
「オレが呼んだ」
「は? なんでおまえなんかが父上を……」
呼べるわけがない。
たかだか執事風情が……そんな目で香椎君を見上げているマシューに、けれど答えたのは香椎君ではなく初老の紳士の方だった。
「彼の名は紫丞孝明。おまえがずっと慕っていた『日本の兄様』だよ」
その言葉にびっくりしたのはマシューだけじゃない。
私も鳩が豆鉄砲くらったくらいには目が点になっている。
マシューがずっと慕っていた『日本の兄様』?
ってことは……香椎君はマシューを知っていたってこと!?


