「でも、立証はできますよ。まだ一人……その当時のことをよく知っている人が生きていますから」
そう言うと香椎くんは執事さんに向かって視線を投げた。
私の隣に佇んでいた執事さんは軽く頭を下げると足早にやってきた扉のほうへと向かい、そっとその扉を開いた。
やってきたのはおばあさんとそう年齢が変わらないように思える一人の女性と、香澄さんだった。
「まさか……!?」
「ええ、そのまさかです」
驚きの眼で見つめるその中を、ゆっくりと香澄さんに手を引かれるように入ってきた女性の傍に香椎くんは近づくと「よく来てくれましたね」とその女性の手を取った。
「宇津木峰子さん」
そう名を呼ぶと、女性は申し訳なさそうにおばあさんに向かって深々と頭を下げた。
「峰子なの……!? 本当に峰子なの!?」
信じられない。
そういうかのようにおばあさんは両手で口元を覆った。
その声に女性はかすれるような声で「お久しぶりでございます、奥様」とさらに頭を下げた。
「もう二度とお会いできないと思っておりました。でも坊ちゃまが……私にもう一度機会をくださいました。弁明する機会を……与えてくださったのです」
香澄さんの手を握ったまま、女性は涙ながらにそう告げていた。
「ご主人様は奥様を裏切ってはおりません。奥様がご主人様と私の子だと思っていたお腹の子は……ご主人様が奥様の卵子を使って体外受精された……正真正銘、ご主人様と奥様のお子様なのです」
と――女性はそう続けたのだった。


