執事様が扉の前に立ち、ゆっくりとそれを押し開いた。
鈍く重い扉の音が、高い天井に響き渡る。
映画で見るような長い白のテーブル。
いくつもいくつもある同じ白の椅子。
そのどれにも金が施され、彫刻がされている。
そして……一番奥の椅子にその人はいた。
優雅に紅茶のカップを口にしていた品のある70前後といった老女は、ちらりとこちらを見ると驚くこともなく。
どちらかと言えば不機嫌な顔で私たちを一瞥すると、静かにカップを置いた。
「誰かと思えば……孝明さんと、そちらは綾渡のお嬢さんではなくて?」
年を感じさせない艶のある声でその人は言った。
香椎くんはそんな老女とは対面になる椅子を手に取ると、そこへどっかりと腰を下ろした。
話がしたいのなら、対面になる必要ないんじゃないかとも思うけど。
それに対面に座ったらおばあさんとはものっそい距離が出来ちゃうじゃない?
それなのに香椎くんはそこから動こうとせず。
むしろ乱暴に足を組み、腕を組む。
「報告はよろしくてよ、孝明さん。
もう、こちらの耳にも届いていますから」
ナフキンで口元を拭きながら答えるおばあさんに、しかし香椎くんは鼻先で笑って見せた。
「それは九条のことだけでしょ、おばあさま?」
「あら? 他になにがあるというのかしら、孝明さん?」
なんだろう。
すごく。
すごく血のつながりを感じるやりとりなんですけど。


