紫丞のお屋敷は圧巻という言葉に尽きた。
純日本家屋というのが『綾渡』の家だったから。
それからすれば紫丞の家は『洋館』というか。
いや、これじゃお城だよと言いたくなるほど敷地は広いし、建物は広いし。
金持ちのレベルがうちとじゃまったく違うと。
そう思わざるを得ないほどに凄かった。
だって、お山一つがもう紫丞のお家なんだもの。
家の敷地内には買い物できる『スーパー』もあるし。
メイドさんたちが暮らす『マンション』完備だし。
紫丞の家に従事する人たちの『憩いの場』としての『温泉』なんかも完備されている。
そのすべてを整えたのが他の誰でもなく『香椎くん』。
だから彼はこんなにも働いているその一人一人に愛されているんだと。
そうこっそりと教えてくれたのは執事様だった。
「余計な話はしなくていいよ、タケ」
香椎くんがそう言って執事様を叱責する。
香椎くんのいろんなことが知りたいのに。
香椎くんは『紫丞』の『当主』としての姿は教えようとはしてくれない。
長い、長いカーペット。
毛の長いふわふわと足元を押し上げるような心地のいい。
けれど気をつけて歩かなければヒールなんて履きなれてない場合は足元を逆に取られちゃうんじゃないかというカーペットをひたすら真っすぐに突き進む。
真っ白い扉に、彫り物が施された金の取っ手。
ひと際目立つ金の縁取りのなされた扉の前に立った香椎くんはちらりと私を見た後で、後ろに控える執事様にスッと視線を送った。


