家の前に待たせていた白のリムジンに乗り込んで、私たちは向かう。
今からが正念場。
香椎くんにとっても。
たぶん……私自身にとっても。
ここからが正念場。
「おばあさんのことだから、一筋縄じゃいかないと思う」
いつになく弱気な香椎くんの言葉。
けれど、その後に続くのは決意に満ち溢れた強い意思。
「でも、もうオレは負けないよ。
キミが傍にいてくれるから……」
香椎くんの熱い目に思わず目を逸らしそうになったけど。
でも勿体ない気がして、私はじっとその目を見つめ返した。
「髪の毛の分くらいは私もきっちり償ってもらうよ」
「そうだね、その権利はある」
そう言って香椎くんは私の髪に触れる。
「ツインテール、オレ好きだったのになぁ」
「また伸ばせばいいだけの話じゃない?
髪は伸びるんだから」
「……そうだね」
そう呟いて淋しげに笑う香椎くんを私はただぼんやり見つめる。
沈黙がやってくる。
その後、私たちは会話を交わすことなく――
ただ、流れる風景をお互いの車窓から見つめ続けることしかできなかった。


