香椎くんの手によって。
香椎くんの握る鋏によって。
私の髪が少しずつ、少しずつ整えられていく。
端から少しずつ、切られた髪がはらり、はらりと床に落ちて行く。
その一つ一つが。
一本、一本が落ちて行くのが淋しくて、手を伸ばしたい衝動に駆られる。
思い出が落ちて行くような。
想いが落ちて行ってしまうような。
そんな郷愁にも似た感情が胸の中で渦巻いて止まない。
「さぁ……これでいい」
香椎くんの手が止まり、私は落ちて行き床に散らばる髪から鏡へと視線を移した。
ボブショートに整えられた髪。
長かった頃とは違う。
はっきりと首元が見える。
そこにいるのは私だけど、なんだか私じゃないみたいにも見える。
「ありがと」
私は髪に触れる。
軽くなったんだ。
軽くなったの。
思いにも。
思い出にも。
もう囚われず、前に向ける。
だって香椎くん。
こうして私をまた解き放ってくれたのも香椎くん自身じゃない!!
「大丈夫」
私は鏡に映る香椎くんに向かってにっこり笑いかける。


