ゆっくりと私を離した父は香椎くんに向き直ると


「話はもうこちらにも入ってきている。

瑠璃様は手ごわいぞ」


そう言う父に香椎くんは深く、深く頭を下げるとまず謝罪を口にした。


「本当に私がついていながらこのようなことになってしまい、申し訳ありません。

お祖母様については、彼女の髪を整えてからすぐに決着をつけてまいります。

それまで、大事なお嬢様を私に預からせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


顔を上げ、父の目を見つめ。

ただ静かに香椎くんは父に尋ねた。

即答はしなかった。

しばらく沈黙が続いたのちに、父は告げた。


「娘がそう決めたのだろう?

私が許可を出す話ではないよ」

「志渡様……」


顔を真っすぐに上げられないままの香椎くんに、けれど父は「しっかりしなさい」と激励した。


「キミらしくもない。

キミはいつでも、誰の前にあっても胸を張っていなくちゃならない。

キミは小さい頃からいつだってそうだったろうが?」


小さい頃の香椎くんを思いだしているらしく、父は朗らかに笑って見せた。

その笑顔につられるように香椎くんも小さくほほ笑む。


これから対決とか、決着とか。

そんなことしに行くとは思えないほど穏やかな。

なんとも和やかな雰囲気に、だけど。

私はなんとなく泣きそうな気持にもなっていた。