「どうして……」
残された私たちの中で、最初にそう言ったのは香純さんだった。
ガタガタと震えは止まらず、そこにずっとへたりこんだままの彼女にゆっくりと香椎くんは近づいて跪いた。
「私……私も……警察に行かなくちゃいけないのに……孝明様を……殺そうとしたのに」
「さぁ……そんなことあったかな?」
ちらりと香椎くんは私といつの間にか私の隣に立っていたのか、執事さんを交互に見つめた。
「記憶にはございません」
どきっぱりと。
隣で執事さんは答える。
っていうか、そんなふうに最初に答えられちゃったらさ。
『ない』って答えしか私も言えないじゃん。
ま。
最初から『ない』って答えしか私も持ってないんだけど。
「私も知らない……かな?」
そう言う私に香純さんは顔を上げて「なんで!?」と尋ねた。
「今だってあなたに酷い事したのに!!
あなただったら警察に私を突きだせたのに!!」
「だって、そんなことしても誰も喜ばないじゃない?」
確かに香純さんのやったことは、本来なら許しちゃいけないことなんだと思う。
警察とかちゃんと入ってもらって、法的にそれをとがめたほうがいいのかもしれない。
でも、そんなことしてもなんにもならない。
「それよりも、弟さんのとこ。
早く戻ったほうがいいよ」
私の言葉に香純さんはまた顔を伏して泣いてしまう。
そんな香純さんの肩に香椎くんは優しく右手を乗せた。


