「九条岳尚さんですね。
『宇津木健太郎(うつきけんたろう)』くんのことでお伺いしたいことがありますので御同行願えますか?」
ダークスーツの年配の男の人が代表でスーツの内ポケットからなにかを出して見せながらそう言った。
その途端に岳尚の顔が一気に青ざめた。
「警察……」
岳尚の視線が香椎くんに向く。
その憎悪に満ち溢れた目を香椎くんは受け止めながら「終わりだよ」と答えた。
「今頃、御実家にも警察の手が入ってるよ」
両脇を固められるように警察官に並ばれた岳尚は、悔しそうに唇を噛む。
「こんなことしたってムダだって分かってないのか?」
そう問う岳尚に香椎くんは小首を傾げて見せた。
さっきまでの怒りに満ちた香椎くんはもはやその姿はなく、いつもの穏やかで冷静で、人をちょっと小馬鹿にしたような彼に戻っていた。
「ムダじゃないさ。
『秘石』の『所有者』が誰か分かれば、『上層部』だってバカじゃない」
ニヤリ。
そう笑って、香椎くんは右手を小さく振って見せた。
そこにつり下がるのは小さな丸い石。
いつの間にそれを手にしたのか、香椎くんはそれを揺らして見せたのだ。
「これがオレの底力ってやつ?」
『じゃ、頑張って』とでも言いたげに、ポンポンと岳尚の頭を叩くと香椎くんはダークスーツの警察官たちに「よろしく」と告げた。
警察官たちは軽く香椎くんにお辞儀をすると、岳尚を伴ってゆっくりと部屋を出て行った。
もちろん、のされた黒服の男たちもまとめてだったけど。


