「待ってたよ」
待っていましたよでも、いらっしゃいでもなく。
なんとも上からの物言いというか、なんというか。
聞いているだけで胸がざらざらするような言い方で、岳尚は笑い顔を崩すことなくそう言って私たちにそれぞれ用意したと言わんばかりに右手と左手を差しだして席を指示した。
岳尚を挟んで右と左。
それぞれ離れて座るようにと。
そう言う岳尚の顔を私は睨みつけるように、添えられた紫丞孝明の手を離し。
示された左の席に座った。
「まさか制服でお越しとはねぇ。
今日がどんな日か。
今日がどんな意味を持つか、分かってないわけではないよね?」
席に着いた途端に岳尚は私を眺めるようにしてそう言った。
「制服こそが今の私の礼服。
学生とはそういうものではないかしら?」
「ふ~ん。ずいぶん毒されちゃってるみたいだねぇ。
どこかの家の執事くんに……」
岳尚はちらりと孝明のほうを見ながら嫌味を紡ぐ。
一方、紫丞孝明はと言えば、そんな嫌味すら涼しげな顔で流していた。
その様子が気に食わないらしく、岳尚はチッと舌打ちして見せた。
けれど、すぐにややぁと表情を崩し足を組み直した。
「ルールの説明はしたほうがよいかな?」
そう確認するように紫丞孝明を見る岳尚に、彼は「彼女に」とだけ答えた。
「今から我々3名でポーカーをするよ。
ポーカーは知ってるよね?」
「ええ」
「賭けるものが無くなった時点でその家の敗北が決まる。
まず、最初に賭けるものは『財産』。
次は『家名』。
最後に『己自身』。
よいかな?」


