扉に一歩踏み入れる。
見上げた天井は高く、そこにはきらびやかと表現するに値するほど豪勢なシャンデリアがつり下がっていた。
目の前には長く続くレッドカーペットを敷いた階段があり、その向こうにも重厚な彫りが施された扉がある。
その前にはまた黒ずくめの男たちがいて、私たちはそこへと案内される。
後ろの扉はバタンと大きな音がし、ガチャリと施錠が施される。
「退路なしです」
「……覚悟……してるもの」
「流石です」
紫丞孝明は真っすぐ伸びるレッドカーペットの向こうの扉を睨みつけながら、それでも柔らかな口調でそう言った。
覚悟はしてきた。
ここを出るときは、胸を張り、九条との試合に勝ってからの話。
ゆっくりと一段ずつ、噛みしめるように階段を上る。
震える指先に。
震える足先に。
それでも力を込めて上る。
ドクン、ドクン。
近づく扉を前に心臓は激しく揺れる。
ここに彼がいてくれたらどれほど心強いだろう。
ここに彼がいてくれたらどれほど安心だろう。
でもここに彼はいない。
それでも選んだのは自分。
扉が開き、奥の部屋が姿を現すのを私は瞬き一つせずに見つめた。
その先に見知った人物の顔がある。
重く、深みのある茶色のテーブルに肘をつき。
隣に並ぶ紫丞孝明同様、黒のタキシードに身を包んだ九条岳尚がニンマリと底意地の悪い笑みを湛え、そこに坐していた。


