凛と背を伸ばし、前を向く。
そしてゆっくり差し伸べられた手を取った。
彼はやんわりと私の手を握る。
握るというよりは添えるといったほうが正しいのかもしれない。
彼に導かれるままに、私は迎えにやってきた白のリムジンに乗り込んだ。
向かう先も何もかも聞く必要がなかった。
この車の向かう先に、九条家の人間がいる。
ただそれだけのこと。
「一つ質問してもよいでしょうか?」
流れる風景を眺める私に向かって、紫丞孝明はそう切り出した。
「なんでしょうか?」
外の風景から目を離し、紫丞孝明に向ける。
彼は真っすぐな瞳を私に向けて「もしも」と言った。
「もしも『紫丞』の『当主』があなたと結婚したいと言ったらどうしますか?」
あまりの突拍子もない質問に、私は唖然とさせられる。
っていうか。
なんでこのタイミングでこの話!?
っていうか、質問の仕方おかしくない?
「紫丞の当主はあなたでしょ?」
そんな私に彼はフッと笑んでみせ
「そうでした」
そんなふうに答えた。
っていうか、当主であるってことを忘れてるってわけじゃないでしょ!?


