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朝8時。
その人は昨夜言った通りにやってきた。
待っていた私を見ると、彼はやんわりと笑い。
「それが貴女の答えだと……よろしいですか?」
そう聞いた。
私は強く頷く。
迷いはあった。
戸惑いも。
不安も。
消えてなくなるものじゃない。
でも決めたこと。
自分の人生に向き合うために、私は九条の申し受けに正面から立って挑もうと思う。
「制服は今の私の戦闘服ですから」
黒のタキシードをスマートに着こなしている紫丞孝明とはまるで対照的な格好だと思う。
綾渡の家の人間としてならば、間違いなく私もドレスを着なければならないって思う。
でも違う。
私は私。
私が私らしくいられるのはこの格好。
綾渡セリ。
18歳の等身大の女の子として、一番自然でいられるのはこの格好。
背伸びもしない。
逃げもしない。
これが私。
「頼もしい限りです」
そう言うと、紫丞孝明はスッと白い手袋をはめた右手を私の前に差しだした。


