「……はいッ」
泣きたくて。
泣きたくて。
でも泣きたくなくて。
我慢する。
きっと香椎くんだったらこう言う。
『こんなときくらい泣いたっていいんだよ』
そう言って私の涙を隠してくれるって分かってる。
そう感じる。
だから。
泣くのは香椎くんが戻ってきてからにしようって私は思う。
もう一度、空を見上げる。
満月の光以外は空に光り輝く星はない。
丸い月はまるであなた。
あなたみたいに私を照らす。
だから私は迷わずに、きっと前を向けるんだって思うの。
あなたが何者だろうともういい。
私はただ。
綾渡セリ。
ただその名を持った自分を受け止めてくれたあなたを信じるから前を向くの。
静かな。
本当に静かで物音ひとつしない静かな時間。
その中に身を委ねながら、私の中では一つの揺るぎない決意だけが煌めいていた。
そんな満月の夜だった。


