ぎゅっと強く瞳を閉じた後で、私はゆっくりと深呼吸した。
迷いはある。
戸惑いもある。
疑問も。
不安も。
全部全部この胸にある。
仮面も鎧も脱がなくちゃ、私の未来はここで決まる。
「父と話をする時間はありますか?」
そう尋ねると相手はこくりとゆっくり頷いた。
「明日の朝、お返事を頂きに再び参ります」
そう答え、紫丞孝明は音を立てることなく、優雅に部屋を出て行った。
フッと力が抜ける。
けれど、悠長にしていられる事態でも、時間もない。
聞きたいことが山のようだ。
話さなければならないことが山のようだ。
父と。
家と。
自分と。
今、しっかり前を見て話をしなければ。
きっと香椎くんだったら私にそうしろと言うと思う。
長い廊下を渡り、父の書斎の前に私は立った。
小さくコンコンッと扉をノックすれば、すぐに父の返事があった。
「どうぞ」
私はその声をしっかり聞いた後で扉を引いた。
まだ新しい畳の匂いが鼻先をつつく。
その奥の縁側に父は私に背を向け座っていた。


