「あなたは綾渡の家の者。
逃げても、隠れても。
その事実は変わりませんからね」
その言葉に強く唇を噛みしめる。
ストレート。
真っすぐに、私の心に突き刺さる。
なにもかも分かっているというような涼しげな瞳がじっと私をとらえ続けている。
逃げても。
隠れても。
そんな自分と決別してみろと、そう言いたいのだろうか?
ずっと反発してきた。
体裁だけは守っても。
本当の自分はそこになかった。
家のことにも。
財産のことにも。
相続のことにも。
なんの関心もなかった。
でも、もう無関心ではいられない。
家のことはどうでもいい。
けれど……九条に飲まれるということは、自分自身が九条に身を置くことになるということ。
それは自分の人生を九条に捧げることになるということ。
一生がそれで決められる。
ふと蘇ったのは香椎くんの顔だった。
もしも。
もしも、今、ここに彼がいたらなんて言うだろうか?
考えても。
考えても。
浮かぶのは一言。
『オレはキミの味方だよ』
たったそれだけ。


