その身で経験している……そう言われて思い出すのは遊園地の出来事。
あとで香椎くんに聞いて身の毛がよだったのだけれど。
あの遊園地にいたのは全て九条岳尚があらかじめ仕込んでいた人たちで。
すべて『エキストラ』だったと――
だから私たちはあの日、九条の息のかかった人間のど真ん中に二人だけでいたということになり。
なにもなかったわけではなく。
ピンチは迎えたし。
ただ、そのときは香椎くんがいてくれたからどうにかなったわけで。
「試合……とはなんですか?」
今回もそんな状況下に誘い込まれるのだろうか?
そう思って紫丞孝明に問うと、彼は「分からない」と答えた。
「昔は囲碁で勝負してきたのですが、九条からはそのようなことは聞かなかったので。
彼が得意なカード……が濃厚だとは思っておりますが」
「カード?」
「ええ、金のある人間が好むゲームですよ。
ポーカーあたり……ではないでしょうか」
そう言うと紫丞孝明はゆっくりと瞳を開き「どうしますか?」と尋ねてきた。
「試合をせずに『降りる』という選択肢もありますよ。
ただ、それをすれば……」
「綾渡は九条に完全に飲み込まれるのでしょ?」
「そのとおりです」
彼ははっきり肯定した後で、小さく、けれど苦い笑みを浮かべた。


