目の前にいる青年は香椎くんとそれほど年齢が変わらないように思えた。
名前は知っていた。
その名前の主の噂だって知っていた。
九条と肩を並べる紫丞家の当主の姿を知る人物はほぼ皆無。
謎に包まれ。
ベールに包まれ。
病弱とも。
存在すら架空の人とも言われ。
表舞台には全くと言っていいほど姿を現さず。
影に隠れていた人物が今、私の前にいた。
紫丞孝明なるその人は、フッと小さくほほ笑んで見せると「あまり警戒なさらないで」と言った。
「香椎くんは……あなたの執事なの?」
私の直球すぎる質問にその人は「まぁ」と曖昧な返事をして見せた。
「彼の存在は大きすぎて、そのような言葉では彼を括れません」
そう言うと、目の前の青年は「彼の話は事が片付いてからでもよろしいでしょうか?」と言った。
「事が片付いてから?」
「ええ、困ったことになっているので……どうしてもあなたのお力添えを頂きたい」
「私の力?」
「ええ。
彼が『最も信頼する』あなたの力を貸していただきたいのです」
トクンと胸が鳴る。
香椎くんが私のことを『最も信頼』している……ということ?
すると青年、紫丞孝明はスッと白い手袋をした右手を差し出した。
「今から私と来ていただきたいのです。
くだらない過去を清算し、新しい未来を築くための戦いに」


