渦潮みたいな男だとそう思った。
膝ががくがくと震えるような、錯覚かもしれないけれど、何か底知れぬものをこの男から感じた。
これ以上はいけないと思う。
深入りなんてしてはいけない。
それなのに、妙な引力が働いているみたいに、その渦潮の中へと引きずり込まれそうになっている私がいた。
ニッ……目の前の男、香椎毅臣がなんとも言えない笑顔を見せた。
「そうは思いませんか、お嬢様?」
他人の秘密は蜜の味なんて……腹黒いというのか、なんなのか。
この男の考えていることが分からなくて戸惑いしか生まれない。
見るな。
見つめるな。
見返すな。
これ以上、そんな熱っぽい目で私のことを見ないでくれ!!
いや、熱っぽいってセリッ!!
それって……やばいんじゃないの?
「お嬢様は秘密はお好きですか?」
そう言って香椎くんは笑う。
なんて悪魔みたいな笑い方だろう。
いや、悪魔なんて生易しい気がする。
オオカミがヒツジの皮を被って笑う。
「私と秘密を共有するのも……悪くないかもしれません……よ?」
熱い瞳。
少しだけ潤んだ……熱のこもった瞳が私を捉え、そして近寄ってくる。
長い指先はするりと私の髪の束を離し、抵抗する間も与えずに私の頬までやってくる。


