「手は打ってある」


だから大丈夫。

そう聞き終わる頃、眼前に迫る非常口の扉がゆっくりと開き、目を見張る。


扉に手がかかるほどの距離で、扉から伸びてきた白服の腕に私は腕を掴まれて引き入れられる。

滑り込むように非常口の外へ出て、捉えられた白服の人物と目が合った。


知らない男が一人、そこにいて。


「ギリギリセーフ……でしたね」


そう言った。


「……遅すぎだな」


そう答えると香椎くんはその場に崩れるようにして倒れ、そのまま動かなくなってしまった。


「ちょ……香椎くん!!」


倒れた香椎くんを起こそうとして、その手を白服の人物に止められた。


「無理に動かすと怪我に触ります。
あとは我々が引き受けます。

セリさんはひとまず綾渡の家にお戻りください。

帰りの車は待機させてあります」


長い黒髪を方のところで紫色の紐でくくった白服の人物がそう告げた。

香椎くんとは雰囲気がだいぶ違う、なんとも実直そうなその人物はニコリともせず、淡々とした口調だった。


何者なのか?


そう問う余裕もないくらいのことは分かり、私はじっとその人物を見つめた。