「ま、それでも人には秘密にしておきたいことがいろいろありますし。
私はやはり外でお嬢様をお待ちいたしましょう」
じっと見つめ……いや、睨んでいた私の方は見もせずに、香椎くんは一人十時の方向を見て納得したようにそう告げた。
それからフッと私の方を見ると、ニッコリと。
今度は正真正銘の『キラースマイル』を繰り出した。
ドキンッと大きな音を立てたのは誰の心臓だろう?
私?
いやいやいやいや、そんなわけないよね?
香椎くんの長い指が伸びてきて、私の長い黒髪が一房掬いあげられる。
それから彼はその私の髪の匂いでも嗅ぐかのように、自分の鼻先を近づけた。
動悸がする。
それもものっそい激しい動機。
息が出来なくなるほど、胸のあたりが詰まって仕方ない。
やめてくれ。
やめてくれ。
ナニコレ、新しい拷問?
香椎くんの伏していた瞼がゆっくりと持ちあがり、澄み切った少し茶色の濃い眼がその姿を見せる。
それは真っすぐに私を射抜き、その力強い眼差しに、私はまたしてもごくりと生唾を飲み込んだ。
「他人の秘密は蜜の味」
何が言いたい、香椎っ!!
そう言いたいのに、声が出ないし、言葉にならない。


