トイレの中は唯一息が付ける場所だと思っていたのに。
『外まで』という言葉をどう理解したのか……香椎くんは。
「では、いってらっしゃいませ、お嬢様」
トイレの扉の前で私にひらひら手を振った。
そう。
トイレの扉の前。
女子トイレの中に完璧に入ってきているのだ。
「あのね、香椎くん」
「はい、お嬢様」
「女子のお手洗いに男性がいるのは……問題だと思うんだけども」
人が周りにいないことをきっちり確認したうえで、砕けた態度で彼に接してみる。
彼はにやりと……そうなのだ。
ニッコリではなく、ニヤリとイジワルに目を細めて笑うと
「音、聞こえないように耳栓しますし。
臭いをお気にされるなら、鼻栓もいたしますけどね」
上の上を行くツワモノだわね、この男。
「耳栓も鼻栓もしなくていいところへ行ってくれ。
ここは『女子の神域』なんだってば!!」
「そう言われてましてもねぇ……ここでもしも何かお嬢様の身の上に起こったら……私が困るんですよねぇ」
お嬢様が困るのはいいとしても、自分が困る状況に陥るのは『NO』なのだと。
おいおいおいおいおいっ、香椎毅臣っ!!
オマエハホント二執事ナノカ?


