「ちょっと……お手洗いに行ってきます」
静かにゆっくりと。
香椎くんを見ないようにして立ち上がろうとすると、香椎くんの動く気配がし、椅子を引かれる。
「そういうの……しなくても構わないのですけど」
「お気になさらず、お嬢様。
こういうのは生理現象と一緒なのですよ、執事にとっては」
頭よりも体なのだからと、そう言われて納得しつつ。
トイレに向かって教室を出ようと一歩踏み出すと、当然ながら香椎くんが動く気配がする。
「……お手洗いに行くと言いませんでしたか?」
「おっしゃいましたね」
「……付いてくるのですか?」
「片時もお傍を離れるなと仰せつかっておりますから」
「……中には入らないわよね?」
「ご一緒してもよろしければいたします、喜んで」
逃げ場なし。
自由なし。
一息つく余裕なし。
「……外までにして」
「はい、お嬢様」
家の中ではもう少し自由だっただけに、外のこの監視にも近い状態に苛立ちさえ覚える。
帰ったらオヤジを問い詰めてやる!!


