岳尚様は殴られた顔面押さえて悶え苦しみ、そんな彼を一瞥してから香椎くんは私の目の前に立膝を突いた。
それから転がっているバックの脇でビービー泣き続けているテントウムシにそっと触れる。
テントウムシはピタリと泣き止み、岳尚様の悶絶する声だけがその場を支配していた。
「大丈夫か?」
今、私どんな顔してるんだろう?
香椎くんの顔が見たいのに、なんかちゃんと見れないんだよ。
「怖かったな。
『また』……遅くなって不安にさせたな、オレは……」
香椎くんの腕が伸びてきて、私はギュッとその腕の中に閉じ込められた。
岳尚様のときとはまるで違う。
熱い、熱い抱擁。
ドクドクという香椎くんの心臓の音がすぐ傍でする。
耳元に熱い息がかかって、心臓が口から飛び出してしまいそうなくらい、私の心が高揚しちゃう。
「もう絶対におまえを泣かせないと誓ったのにな、『あの日』……」
よくわからないことばかり。
香椎くんは呟き続けている。
何を言ってるんだろう?
私と香椎くんは初対面じゃない?
なんで『また』とか『あの日』とか言ってるの?
「……くっそ……」
悶絶していた声が少し鈍り、そんな悔し紛れとも言える声が割り込んできた。


