ガタッ……大きな音とともにゆっくりと観覧車が動き出した。
「な……に!?」
観覧車が動き出すことに驚いたように岳尚様が顔を上げた。
私から手を離し、ケータイを取り出してどこかに電話する。
相変わらずビービーとうるさいテントウムシにイライラしている様子で、ケータイの向こう側の人間に対して「どういうことだ!!」と怒鳴っていた。
「動かせなんて言ってないだろうが!!」
観覧車は止まらず、地上へとゆっくりとしたスピードで降りはじめて行く。
それと同時にテントウムシの音が僅かずつだと思うけど、小さくなっていく気がした。
「止めろ!! いますぐ止めろ!!」
怒り狂っている岳尚様には穏やかで上品な面影はない。
こんな野蛮だったんだ。
こんな仮面被ってたんだ。
私も一緒。
だから……この男の前で仮面被って『お嬢様』の『フリ』なんてしてやることないんだ。
なーんて思ったら。
「悪あがきってみっともない」
と思わず呟いてしまっていた。
「なんだ……と!?」
言った後にしまったと思っても仕方ない。
キッと睨みつけてくる岳尚様に対して、私はもう怖いものなんかなくなっていた。
だって分かるんだもん。
もうすぐ傍に香椎くんがいてくれるんだって。


