「アイツを黙らせるにはやっぱり『ヤル』しかないのかな?」
耳元近くでざらざらした声がする。
『ヤル』って何を?
『既成事実を作るつもりかもしれない』
不意に香椎くんの声が蘇って、私は身を固くした。
待ってよ、待ってよ、待ってよ、待ってよ!!
こんなところで既成事実?
ありなわけない。
なしなしなしなしなしなしなしだってば!!
「荒っぽい事、ほんとは嫌いなの。
でも仕方ないよね?
恨むんならアイツを恨んだらいいよ」
抑揚もない。
感情もない。
モノを見つめる目。
モノに対して言い放つ言葉。
そんな態度にイライラと不安とが降り積もる。
っていうかなにやってんのよ、香椎くん!!
執事でしょ!?
あんた私の専属執事って言ったじゃない!!
御主人様大ピンチになにしてんのよっ!!
にじり寄る岳尚様の顔から逃れるように顎を引く私の指先に丸くて固いモノが当たる。
テントウムシ!!
そうよそうよそうよそうよ!!
こういうときの護身用アイテムちゃんじゃなかったの!?


