「聞きたくないわけないよね?
教えてあげてもいいよ、ボクが」
振り払った手を撫でながら、岳尚様はクスッと小さく笑った。
香椎くんの正体。
聞く?
聞かない?
自問を繰り返したって答えなんかない。
聞いたらいけないブラックボックス。
香椎くんの正体はパンドラの箱みたいに近寄っちゃいけない。
開けてはいけない、そんな気がする。
聞いてしまったら、私たちの関係が崩れてしまう気がする。
今のままでいいと思った私の気持ちが、どうにかなってしまう気がする。
「私は……聞きたくありません」
キュッと唇を噛みしめて、岳尚様にそう答えた瞬間。
岳尚様が私を囲むように手を壁につけ、冷ややかな視線を向けた。
「ほんとに身も心もあの男に毒されてるんだな、『おまえ』」
ゆっくり、ゆっくり観覧車を揺らしながら、苛立ったように岳尚様は私を見ていた。
「あいつの正体を聞いて大人しくボクに、いや九条に従うなら許してあげたのにな」
不安定な観覧車がグラグラ揺れる。
揺さぶりながら、岳尚様の顔が私の顔ぎりぎりまで迫ってくる。


