「私が空気になってしまったら……身の上の保証しかねますけれど、よろしいでしょうか?」
真顔になって香椎くんは私の瞳を見つめ返してそう言った。
キレイな顔は笑った顔じゃなくても十分殺傷能力がありますよ。
香椎くんのその顔に、私は思わず唾を飲み込んでしまった。
いや、いや、いや、いや。
しっかりしなさいよ、セリッ!!
この男の言葉を頭の中でもう一度反芻しようじゃないか。
『身の上の保証しかねますけれど』
なんの保証か分かったもんじゃない。
っていうか、なにを考えているんだか。
ほんとに掴めないし、分からない。
「そんな顔しないでください。
空気になりたくなります」
どうやら、おっそろしいほどエロっぽいこと考えていることだけは掴めた気がする。
「もういい。黙ってそこにいて」
「はい、仰せのままに」
多くは望んだらいけない。
多くを望んだらこの男の思うつぼになる。
小さくため息を吐く。
今日はこれで何度目のため息だろうか?
「ため息つくと幸せが逃げてしまいますよ」
誰のためのため息だと思ってるんだ、香椎っ!!
全部、おまえのせいだと言いたくなる。


