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落ち着かない。
非常に落ち着かない。
それはなぜって……
「あ、私のことは空気だと思ってくださって結構です」
キラースマイルが繰り出された瞬間に、黄色の奇声が飛び交って、なぜか続けてバタバタと床に死体の山が出来上がる。
いや、無理でしょう、この状況。
どうやったら、この男の存在を空気などにしてしまえるものか。
その手段を知っている人がいたら、何百万積んでもいいから教えてもらいたい。
「せめて……どこか別の部屋で待機とかっていうのは無理なのかしらね?」
教室の私の席は一番後ろの一番窓際。
その横に張り付くように立つのは勿論香椎くん、その人なんだけど。
入ってくるなり女子たちの視線を一人占めし、その後ムダに笑顔なんて振りまくもんだから、死体がるいるいと山になる。
迷惑だ。
かなりの迷惑だ。
おかげで今、クラスの半数以上の女子が校内のストレッチャーで運ばれて行った。
「志渡(しどう)様にお嬢様の傍から絶対に離れてはならぬと仰せつかっておりますので。
こればかりはお嬢様の命であっても聞けないのです」
『だから諦めなさいね』
っていうのは香椎くんの瞳。
お父様に言われてるって……どういう考えでそんなこと言いやがった、あのオヤジは。
「じゃ、せめて空気になって」
その恐ろしい存在感を忍術でもなんでも使ってどうにかしてほしいとは、切実な希望、願いなんだけど。


