悶々する。
喉元から胸の上全体がものっそい、もやもや黒い雲をぎっちり詰め込んだみたいに悶々として苦しい。
胸が詰まる?
そうだね、その通りだね。
だから叫びたくなるし、走りたくなるし、丸投げしたくなる。
もう一度足を止め、香椎くんに向き直る。
それから手にしていたカバンを彼の胸に押し付ける。
「持ってきて。走るから」
一瞬驚いた顔をしてみせた香椎くんは、でもすぐにややぁとなって私に笑顔を向けて答えた。
「仰せのままに、お嬢様」
そう答えてるのに、目は違うことを私に告げる。
『そんな子供っぽいところもあるのね~』
って、声なき声が聞こえてくる、口よりも達者なというのか、弁の立ちそうなその瞳からまるで逃げるように私は走り出した。
走り出しながら、ちらっと香椎くんを見る。
「後ろはお任せを~、お嬢様~!!」
分かっていたかのようにチラチラと手を振る悪魔がそこにいて……
ああ、やられたなって思った私は完全に……
香椎毅臣、その男に負けていたのだった。


