―次の日―
俺はコートを着て荷物を持ち、下に降りた。
玄関には麗羅が居て、俺のブーツをサッと出した。
俺は何も言わずにブーツを履き、外に出ようとした。
すると、麗羅がコートの袖を掴んで止めた。
「…本当は…止めたいです…。でも…薫さんが命を賭けてでも…大切な人を救いたいという思いを…私が止める権利なんてありません…。」
麗羅は涙声で呟いた。
「…こんなことを今言うのは…ズルいかもしれませんが…私は…薫さんが…大好きです…。…愛しています…。」
俺は振り返らずに麗羅の話を聞いた。
「…ありがとな。でも…俺は大切な人が居るんだ。麗羅の気持ちに答えることはできない。」
「わかってます…!ただ…私が気持ちを伝えたかっただけです…。」
麗羅は俺のコートの袖を離した。
振り返って麗羅を見ると、涙を拭いて俺に笑顔を見せる。
「頑張って下さい!薫さんとの距離は遠いですが…ここから応援してます。ありがとうございました。」
そう言って麗羅は俺に頭を下げた。
「薫さん…お気をつけて。」
「あぁ…行ってくる。色々ありがとう。元気で頑張れよ。」
俺はそう言って空港に向かい始めた。
少し歩いて後ろを振り返ると、麗羅は笑顔で俺に手を振っていた。
その姿を見て、俺はもう振り返らないことにした。
俺が振り返って…辛いのはあいつだ…。
いつかきっと…あいつの涙を拭いて、一緒に歩んで行く奴が現れるはず。
その時が来るのを俺は願ってやる…。
遠い場所からな…。
