―辰馬―


地下に降り、お嬢様が居る牢屋の前に座った。


「ほれ。昼間メシ食べなかっただろ?ちゃんと食わねぇと成長しねぇぞ。」


俺は牢屋の隙間からチョコレートやらスナック菓子やらを入れてやった。


だが、お嬢様は反応することなくうつむいて体操座りをしている。


「辰馬さん…。あなたがしようとしていることは本当に正義なのでしょうか?

確かに私達のような普通の人は裏扇杜に住んでる人達にあまりいい印象は抱きません…。でも…この裏扇杜にも私達と同じように大切な人や守るべき人っていうのは存在するのではないでしょうか?

私は…あなたがよくわかりません…。
なぜ優を育ててきたあなたが…優の大切な物を奪っていき…無理矢理戦いの渦へと巻き込もうとするのですか…。」


うつむいたままお嬢様が俺に聞く。


「…確かに間違ってるかもな…。俺のしていることは。荒西や知り合いと引き離し、あの優しい優を戦場に誘うのはな。

だから今の俺がやっていることは只のエゴだ。自分さえ楽しければそれでいいんだよ俺は。」


タバコをくわえて火をつけた。


「俺は物心がついた時に裏扇杜に居た。当時の裏扇杜は酷い荒れようでよ…生き残れたら幸運、その日の食事があれば更に幸運だった。だから戦い続けた。自分を守る為だけに。他の奴なんて気にも留めなかったよ。自分のことで精一杯だったからな。

それを繰り返してる内にいつの間にか『魔神』とまで呼ばれるようになってた。

そんな時かな…あいつと出会ったのは。」