―始末屋アジト―
「ん…うん。」
ソファーで仮眠を取って起き上がった。
リビングを支配するのは俺の呼吸音と時計の針の音。
4:50。
こんなにも静かな午後は何年振りだろうか…。
服を脱いで、涼風が巻いてくれた包帯を取った。
傷は綺麗に治ってる。
戦う分には何も問題ない万全の状態だな…。
―『迷ってるのか?そりゃ迷うよな~。何年間も連れ添った仲間と戦わないといけないもんな~?辛いなら止めたらどうだ?』―
アビルの言葉を聞いて笑ってしまった。
「止めたら俺の命を奪うだけだろ?それは困る。まだお前の力を利用させてもらわないとな。」
―『よくわかってるじゃないか。止まることは俺は好きじゃない。まして…俺様が負けたようなレッテル貼られたままじゃ尚更止まる選択肢などお前にはないからな。
次は勝て。二重だろうが三重だろうが所詮ザコの集まりだ。
俺様のような『魔王族』には叶わないんだよ。まぁ…力の使い方にもよるがな。
お前はこの俺様が認めた数少ない器だ。
負けた時はその命…俺様が頂く。』―
負けは許されない。
そんなこと自分が一番わかっている。
俺は上にある自分の部屋に戻り、服を着替えて洗面所に行った。
戻ることも…嘆くことも…
今の俺の選択肢には与えられていない。
ジェルを手に取って中身を捻り出し、前髪を後ろに持っていく。
それを何度か繰り返し、オールバックにした。
―『ヒュ~!随分気合い入ってるじゃねぇか!』―
更にスプレーで固め、完全に前髪が落ちてこないようにした。
「戻れないなら自分の力を信じて戦うしか道はない。そして…この拳で未来を切り開くだけだ。俺の為にな…。」
鏡を見て言った。
―『カッコいいじゃねぇか。だったらここから見せてもらおうか。お前の力ってやつをな。』―
「よく見とけよ。」
手を洗い、タバコをくわえて火をつけ、外に出た。