始末屋

「そういえば…ここ最近聞いた噂があるんだが…聞いてみるか？」


マスターが声を潜めて言ってきた。


「何？」


「冬限定のアーティストに田坂 鳴海って奴居るだろ？最近…裏扇杜でちょくちょく見かけるらしいぞ。」



田坂 鳴海。


…あの『雪の女神』を作った奴か…。


「そんな大層な奴がまた何で。」


酒を飲み干して、マスターの前に出した。


マスターは酒を作りながら話し始めた。


「何でも…裏稼業で評判のいい業者を探してるらしい。お前らの名前も当然耳に入ってるだろうな。」


グラスを俺の前に出した。


てことは…あの田坂 鳴海が俺達の所に来ればかなりの大金が見込める。


「ここいらで有名な裏稼業って言えば『始末屋』か『護り屋 涼風』しかないからね～。護り屋 涼風はここ最近活動してないようだし…間違いなくあんた達の所だろう。」


なるほど。


これは確実だな。


少し口元が緩んだ。


「おい！今の話本当かよ！」


さっき話してた奴が俺の所に来て、マスターに話しかけた。


「あぁ…本当だよ。それより…今あんたの真横に居る男が誰だか知ってるのかい？」

マスターがそう言うと、男は俺の胸ぐらを掴み、机が揺れてグラスが落ちて割れた。

「死神だか何だか知らないがなぁ！！お前らに仕事が流れすぎなんだよ！ガキが調子に乗るなよ？」


俺は手を掴んで思いっきり握った。


「あぁっ…あぁっ！！」


「それが悔しかったら有名になってみろよ。」



手を放すと、男は手を抑えてうずくまった。


俺は男の頭を踏みつけた。



「グラス割ってすいません。慰謝料として…グラス代は値段の１０倍にして今すぐ会計と一緒に払いますからってマスターに言え。じゃねぇと…殺すぞ？」



「す…すいません…!慰謝料として…グラス代は値段の１０倍にして…今すぐ会計と一緒に…払いますから…。」


男は怯えながら言った。


「グラスの値段は？」


「薫のグラスは１万円だ。」


マスターは爽やかに言った。


「だそうだ…。」