俺は初めて会った時から桜のことが好きだった。



綺麗な顔立ち、天真爛漫な笑顔、黒くて長い髪……好きな所を挙げたらキリがないくらいに…。



何より…こんな俺をいつまでも支えてくれる桜が好きだった。



どんな時でも一緒に居てくれて…俺に大丈夫って言ってくれる桜の存在があったから、俺は昔に比べてこんなにも変われたのかもしれない。


そんな笑顔を俺だけの物にしたいという思いはあったが…それを言葉にはできなかった。



そんな言葉によって‥この関係が崩れるのが嫌だった。



「薫?今日何が食べたい?」



桜が俺の顔を覗き込んで聞く。



「わぁっ!」


色んなことを考えていたからビックリした。


「大丈夫?何かここ最近上の空だけど…。疲れてるなら家行くの遠慮しとくよ?」


桜は心配そうに言った。


「俺は大丈夫だけど…桜は家帰んなくても大丈夫なの?」



桜は横山家の養子として施設を離れて暮らしている。


だが、度々抜け出して施設に戻ってきたりしていた。



正直俺はそのことだけは心配していた。



「いいよ。別に本当のお母さんとお父さんって訳じゃないし…それに薫の所なら安心して送り出せるって言ってたからね」


まぁ…それはありがたいけど……。


「でも…俺からしたら羨ましいよ?本当とか嘘とかの前に『家族』って存在の中に居れるのは!俺は何も知らないし…家族って言っても施設の人達しか居ないから。」


俺がそう言うと、桜は俺の手を握った。


「……薫には私が居るよ。ごめんね…嫌味な悩みとか言って。」


俺は桜を見ていた。


「たまに…思うんだ…。このまま何も変わらずに桜と居れるかなって…。」



そう言って夕焼け空を見上げた。