兎心の宝箱【短編集】

「有坂さんは、お昼食べないの?」

「えっ? あっ……黒瀬君。えと……。お弁当今朝落としちゃったし。お財布も一人の時は持たないようにしてるから」

 なる程、多分朝犬に襲われた時にでも落としたのだろう。

 財布を持たないのも彼女の日常を考えれば納得してしまった。

 後から考えれば、女子にこちらから声を掛けたのはこの時が初めてだったと思う。

「学食一緒にいかないか? 手持ちならあるし、貸しておくよ。嫌ならいいけど」

「えっ? 嫌じゃないけど。私と一緒でいいの?」

 彼女が、後ろにいる宮村をチラチラ見ながら遠慮がちに言う。

「宮村もいいよな? 有坂さんの事結構かわいいって言ってたし」

 振り返って宮村に問い掛けると、少し頬が引きつっていたが了承した。