兎心の宝箱【短編集】

 月明かりが辺りを包む頃一人の男性が鳥居の方から歩いてきた。

 年の頃は父と同じくらいだろうか? スーツを着こなしたその男性は父にとてもよく似ているが父の筈がない。

 父は、戦地で死んでしまったのだから。

 近くに来たその男性は、しゃがみ込み智子と視線の高さを合わせると優しく語りかけた。

「母さん。家に帰ろう」

 この人も私は知らない。

 でもとても心が暖まる気がした……。