しばらくして襖(ふすま)の向こうから、パン、パン、と何かを叩く音が聞こえた。

「何の音だろう?」

 少しだけ震えの止まった体を動かして襖の方へと向かう。

 私を攫った犯人がいるかも知れない。

 そう思うと怖くてしようがなかったが、音がでないように気を付けながら隙間を開けて、向かう側を覗きこんだ。

 向こう側は同じ様な和室があり、その更に向こうには、やはり見覚えのない小さな庭が見えた。

 庭には横長の物干し竿が据付られており、布団が干されている。
 
 ここからでは、ハッキリとは見えないがどうやら先程の音は布団を叩いた音だったようだ。

 日常的に聞く音だとわかり、智子は少しだけホっとした。

 最初は、攫われたのかも知れないと思った智子だったが、少し考えを改めた。

 日常的な光景を見た事もあったが、冷静に考えればこんなフワフワした布団に寝かされて監視もいないのだ。

 もしかしたら、私が寝ている間に急遽父か母の知り合いの家に行く事になったのかもしれない。

 そう思うと先程までの震えがピタリとやんだ。

 お母さんに早く会いたい。

 この家の何処かにはいるだろう。

 私を置いて何処かに行くわけがないのだから。