“実は、その空には
何もなかったんだ。
隣に誰かいたら、
「あ」と言ってその方を
指差してみてほしい。
すると、その人は
そっちを見るはず。
僕も、まんまと
引っ掛かった一人だ。
けれど、実際に
何かあったのは
空の上じゃなく、
彼の方だった。
何もないじゃないか、
って振り返って、僕は
息を止めた
膝の上に腕を組んで
俯いていた彼の肩が、
小さく震えているのを見た。
顎の先に
少し留まっていた雫が、
太陽の光を含んで
草の上に落ちていく。
あえて別の方向に注意を
逸らせようとしていた
彼の気持ちを
無駄にしちゃいけない。
そう思ったから、
再び空を見上げて何かを
探し続けるフリをした”