僕はギターを下ろした。


ケースにしまおうとして背を向けかけた時、まだ1人、その場に留まっていた人に気づいて振り返る。



「……太田……」



そう呼んでも口を噤んでいる彼は、じっと僕を見ていた。


太田にいつから歌を聞かれていただろうと思うと気後れして、彼から視線を逸らさずにはいられなかった。

彼をここに呼んだのは、この曲を聞いてもらうのが目的だったのだけれど。


聴いてくれていたら、僕の気持ちが伝わっていたら……そして笑顔を見せてくれたら嬉しいなと思いながら、もう一度太田の顔を見た。


けれども、太田は、泣いていた。


目を逸らした僕は、俯いたままで言葉を運び出す。


「僕の気持ちは、こんな感じ。伝えたいことは、これだけ。上手い話とか、気の利いた事とか、何も言えないけど、僕──」


気になって少し顔を上げたら。


言い終わるか終らないかの刹那、太田が僕の方へ飛び込んでくるのが見えた。



無風だった空間に、突如風が起こる。




──そして僕は、無意識にギターを手放した。