僕の方も見ずに屋根の下から出て、どしゃ降りの中を、傘も差さずに歩いていく。


その後ろ姿はたくましくて、それでいて儚げで……どことなく可哀想で……



……どうしてだろう……?



腹を立ててたはずなのに。

全くどういう訳か、僕は彼女を放っておくことができなくなってしまった。


「──ねえ」


バシャバシャ近づいてくる僕に、彼女は首だけで顧みた。

「お節介かもしれないけど、途中まで送る! ……あの、その、僕たち同じくらいの歳みたいだし……」


そんな台詞を吐き出しつつ、赤面していく。


きっと、とっさに引き留めようとして、頭が勝手に作り出した言葉だ。

そういう時には、思いも寄らない言葉が飛んで出たりするから。


でも。
冷静を取り戻した時、気付いてしまった。


──僕の意志で彼女を引き止めた──


それはつまり、俗に言う、『ヒトメボレ』というやつで。


「め、迷惑だったかな?」


彼女は横目に僕を見ると、つれなく、


「送られるの好きじゃないんです」


と言う。


言葉とは裏腹に口元は笑っているように見えた。
苦笑というやつだ。


「じゃあ、途中まで一緒に……なら、どう?」


すると彼女は、笑みを浮かべて答えてくれた。


「それならいいですよ」