「俺、今すごく幸せだよ」
ご飯を食べ終わったあと、なぜだか如月さんの腕の中に収まった私は、急にそんなことを言われた。
「幸せ……ですか?」
戸惑いながらキョトンとした声で聞き返せば、彼は私の肩に顎を乗せて頷いた。
「ほんとはね、俺にも許嫁っていうか婚約者みたいなのがいたんだけど、これがとんでもなくわがままな子でね。
とてもじゃないけど結婚できないって親父に言ったの」
耳の横でほとんど呟くような状態で語り始めた。
「親父も家が決めた相手無視して母さんと一緒になってるから、俺がそう言ったときもなにも言わず解消してくれた。
そんな親父と同じように、俺も大学で一番好きな人に出逢えた」
ぎゅっと抱き締める腕に力を入れる。
「…親父と違うのは、その人のことを好きな奴が他に2人もいるってこと。
でも今は、こうして俺だけのものになってる。それだけで、もう十分幸せ」
静かに言い終えて、そっと首筋に唇を付けた如月さんの優しさが改めて身に沁みた。
私がはっきりしないせいで、きっと3人を苦しめてる。
それなのに、如月さんは私を責めたりしない。
それどころか"幸せ"だとまで言ってくれた。
大学を卒業すれば、実家を継いで企業を経営するであろう人としては、優しすぎるくらいの気遣いができる人…。

