如月さんのお母さんは、亡くなったりしてないはずなのに、どうしてそんな顔するの…?
「俺の母さんは、小4のときに亡くなった。今の母さんは後妻なんだ。」
なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと焦りが生まれた。
「今の母さんは根っからのお嬢様で育ってきたから、オムライスどころか料理なんて作ったこともないよ。
だけど、前の母さんはもとは普通の一般人で親父が大学で出逢って一目惚れしたから如月家に嫁いだ。
そこで、俺が生まれたんだ」
初めて聞いた如月家の秘密。
たぶん、あまり他言していい話じゃないのだろう。
「…小2のとき、初めて母さんが料理してくれたんだ。なんでだったか経緯は覚えてないけど、とにかく美味しかった。
オムライス自体初めてだったから、余計美味しかったんだろうね」
俺にとってのお袋の味は、オムライスなんだ。
最後にそう言って寂しげな、切なげな、嬉しげな顔をした。
「……そんな大事な料理、あたしなんかが作って良かったんですか…?」
躊躇いつつ口を開いて問えば、にっこり笑った如月さんが迫ってきた。
「俺の夢だったの。大事な、大好きな人にオムライス作ってもらうこと」
「ちょ、」
「恋歌ちゃん以外の人になんか、絶対頼まない」
近い、と押し戻そうとした途端、真面目な顔に戻って言われてしまった。
その言葉になぜだか身体中が熱くなる。
恥ずかしさと、嬉しさと…。
複雑な感情が胸を支配した。

