薪坂さんの提案に、他の2人も確かに、と肯いた。


「いや、でも……」


反論しかけたとき、私の目は、思わぬものを捉えた。


「ちょ、恋歌ちゃん?大丈夫?」


がくがくと足が震えだし、立っているのもやっとな状況の私に、薪坂さんがびっくりして支えてくれる。


「どうかした?」


如月さんの問いかけも、私の耳をするりと通り抜ける。


徐々に呼吸が荒くなって、こちらに近づいてくる人影をじっと凝視する。


「……春…瀬…」


無意識のうちに口をついて出た名に、3人はキョトンとしている。


それまで、奴は私の存在に気が付いていなかったのに、


急に視線をこちらに向け、目が合うと、驚いたような顔をしつつ昔と変わらない笑顔で近づいて来た。


逃げ出したいのに、足が竦んで動けない。


脳は逃げろというのに、体はまったく動いてくれなかった。


「恋歌じゃねぇか。…久しぶりだな」


ニヤッと口元を緩めて、そこで彼は初めて周りの3人に気が付いた様子だった。


「お前……相変わらずモテんのな」


ククッと喉の奥で笑ってるけど、目は全然笑ってなくて。


あの時の恐怖が、また私を襲った。


全身から汗が噴き出て、視界が揺らぐ。